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One's Doghouse

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10. 01, 1998

お手

 コリー犬を飼ったことがある。正確に言うと、一時預かったことがあると言った方が良いかもしれない。
 ある時、懇意にしている某会社の社長が、その犬を連れて我が家にやってきた。
「実は近所の会社の社長が夜逃げして、飼っていたこの犬が残されていたんだが、この家で飼っては貰えないだろうか?」
 羽振りの良いときに飼い始めたは良いけれど、夜逃げするにはじゃまだったらしい。きっと血統書も有るんだろうが、その書類もそんな事情じゃ出てくるわけもない。すでに我が家には犬一匹同居していたが、幸い田舎で犬のもう一匹くらいはじゃまにはならない。もともと動物好きの家族で反対するものはいなかった。しかし、
 コリーといえば牧羊犬。牧羊犬といえば羊を追うことが仕事。ということは、そう、吠えるのが得意である。それもやたら吠える。家人以外にはだれにも吠える。隣の人影が見えたと言えば吠え、数メートル先の道路に車影が見えたと言っては吠える。いささか困りものである。朝から晩まで吠えてばかりいるので、番犬にもならない。いわば壊れた警報機みたいなものである。いつも鳴っているから、本当に異常事態なのか分からない。さすがに田舎でも近所の目が気になってきた頃...
 吠えてばかりじゃなくて、少しは芸でも仕込まれていたかと、試しに犬の前に手のひらを出し、「お手!」と言ってみた。
 その瞬間、犬は全体重とおぼしき重量を右前足に集中させ、差し出した私の手のひらめがけゆっくりと振り下ろしてきた。
 私の手の甲が地面に付いても、その力が弱まることはなかった。そして、ふりほどいた私の手の甲には、庭に敷いた玉砂利の跡がくっきりと赤く残っていた。
 犬はその週のうちに、数日前連れてこられたように車に乗って我が家を後にした。

# なつかねぇ奴は嫌れーだよ